日本人は世界的に見ても保険への加入率が高い国民として知られています。
その背景には、文化的な要因や社会保障制度、経済状況など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
今回は、ライフネット生命の創業者である、立命館アジア太平洋大学学長特命補佐の出口治明さんに、日本人の保険に対する考え方、そして日本と世界の保険観の違いについて伺いました。

立命館アジア太平洋大学 学長特命補佐
出口 治明 氏
2008年、還暦でライフネット生命を開業。2012年に上場し、社長・会長を10年勤める。2018年1月より、立命館アジア太平洋大学(APU)学長を務め、2024年1月より学長特命補佐に着任。著書に『働く君に伝えたい「お金」の教養』(ポプラ新書、2023)、『復活への底力』(講談社 現代新書、2022)など多数。 立命館アジア太平洋大学(APU) 世界約109か国・地域から学生が集い、学生と教員の約半数を外国籍が占める。 APU2030ビジョンとして「APUで学んだ人たちが世界を変える。」を掲げており、QS世界大学ランキング「総合順位」では、西日本の私大で2位(全国私大5位)の評価を得ている。
生命保険の本質とは
編集部
そもそも人はなぜ生命保険に入るのでしょうか?

出口さん
生命保険は、子どもを育てている世帯にとって、単なる経済的な備え以上の意味を持ちます。それは、子育てを全うし、次の世代へと命を繋げるための重要な手段です。
子どもたちが安心して成長し、未来を切り拓いていくためには、親世代が安心して子育てに専念できる環境が不可欠です。
予測不能なリスクに備え、経済的な安定を確保することで、親は子どもたちの成長を支え、未来への希望を繋ぐことができるのです。
つまり、子育て世代における保険の本質とは、単に経済的な損失を補填するだけでなく、子育てを全うし、次世代へと命を繋ぐための「希望の証」であるといえるでしょう。
日本人の生命保険加入率はなぜ高いのか
編集部
日本人の生命保険加入率が高い理由としては、どのような要因が考えられますか?

出口さん
その問いに関しては、生命保険の本質に立ち戻ってみるとわかります。
日本と北欧諸国では、社会保障制度の考え方に大きな違いがあります。デンマークなどの北欧諸国では、国民の生涯にわたる社会保障制度が整備されています。
医療、福祉、介護といったサービスは、公的サービスとして無料で提供され、国民は一定水準以上のサービスを保障されています。
これは教育においても同様です。公立校の経費は国と自治体が全額負担するため、学費は無料です。大学も、デンマーク、北欧諸国、EU加盟国の国民であれば、無料で学ぶことができます。
私立校にも政府の補助金が拠出され、授業料の一部をまかなっています。つまり、北欧諸国では、子育てや教育にかかる費用が、日本に比べて非常に低いといえるでしょう。
このような充実した社会保障制度を持つ北欧諸国では、日本のように民間の医療保険や生命保険に加入する必要性は低くなっています。
一方、日本では、社会保障制度は存在するものの、自己負担額が比較的高く、特に教育費や医療費の負担が家計を圧迫するケースも少なくありません。そのため、将来への不安から、民間の保険に加入する人が多いと考えられます。
参考)日本における生命保険の加入率
生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査(2022年度)」によると、日本における生命保険の加入率は79.8%と非常に高い水準になっています。
この数字は、日本人がいかに保険を重視しているかを示しています。
(参考:2022年度 生活保障に関する調査 |生命保険文化センター)
参考)生命保険加入率の国際比較
生命保険の加入率を国際的に比較すると、日本はアメリカやイギリスなどの先進国と比べても高い水準にあります。
ただし、保険の種類や保障内容には国によって違いがあるため、単純な比較は難しいことには注意する必要があります。
例えば、北欧諸国では社会保障制度が充実しているため、民間の生命保険に加入する人は比較的少ない傾向にあります。
(参考:世界の消費者はどの位の割合で生命保険に加入しているのか-生保加入率の国際比較-|ニッセイ基礎研究所)
参考)世界的に見て重い日本の教育費の家計負担
OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本の教育費の家計負担は、加盟国の中でも高い水準にあります。これは、OECDのデータからも裏付けられています。
例えば、2021年のデータでは、OECD加盟国は、GDP比で約4.9%、ノルウェーの教育機関への公的支出はGDP比で約6.5%と、日本の約4%と比べて約1.6倍となっています。
保険の選び方
ほけんのコスパでは、保険を選ぶ際、自分のライフスタイルや家族構成、将来設計などを考慮し、必要な保障内容を見極めることが重要だと考えています。
また、保険の種類や保険会社の選択肢も多岐にわたるため、複数の商品を比較検討することをおすすめしています。
ここからは、保険の選び方について、出口さんに伺います。
日本は公的な保障が充実しているから民間の保険は不要?
編集部
「日本は公的な保障が充実しているから民間の保険は不要」という声もありますが、「民間の保険は不要」という考えに対して、どのようにお考えになりますか?

出口さん
確かに、子育てを終えた一個人にとって、ある程度の年齢までは公的医療保険で十分なケースも多いでしょう。
実際に、60歳を超えて子育てが終わり、健康状態に問題がない方であれば、高額な医療費が発生する可能性は低く、民間の医療保険は不要と考えることもできます。
しかし、医療技術は日進月歩で進歩しており、今後、高額な先進医療が必要となる可能性も否定できません。
そのような事態に備え、最低限の医療保険に加入しておくことは有効な手段といえるでしょう。
また、生命保険については、家族構成や経済状況によって必要性が異なります。
例えば、配偶者や子供がいない場合は、死亡保障の必要性は低いと考えられます。
保険選びで最も重要な要素は自分で判断すること
編集部
保険を選択する上で最も重要な要素は何でしょうか?

出口さん
近著の「自分の頭で考える日本の論点」(幻冬舎)の冒頭でも書いていますが、マスメディアやSNSなどで飛び交う議論を見ていると、いったい何が正しいのか、考えれば考えるほどわからなくなる人も多いことでしょう。
人はどうしても、声の大きい人の意見や、挑発的な意見、面白い意見、感情に訴えるわかりやすい意見などに飛びつきがちです。
保険は不要といった意見もありますが、経済状況や家族構成によって保険が必要かそうでないかは異なります。
そういった意見に引きずられず、自分の頭で考えて、「自分にとって正しい判断」を下せるようになることが大切です。
編集部
ありがとうございました!