高額療養費制度とは、1カ月間(同じ月の1日から末日まで)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が後から支給される制度です。
医療費が高額になった際には心強い制度ではありますが、所得によって自己負担額限度額が決まったり、例外があったりなど複雑な制度でもあります。
そのため、「高額療養費制度が使えるのか不安」「自己負担額がいくらになるのか知りたい」と思っている人も少なくないでしょう。
本記事では高額療養費制度が使えないケースやがんの治療にかかる費用などを社労士監修のもと、わかりやすく解説します。
※本記事は2024年9月時点の制度内容をもとに作成しています
※本記事では一般的な内容かつ一例を記載しています。制度について不明点がある場合はお住まいの市区町村でご確認ください
この記事を読んでわかること
病院を受診した際、窓口で自己負担する医療費の負担割合は原則3割
高額療養費制度の自己負担限度額は、本人の年齢や年収によって異なる
高額療養費制度と合わせて確認しておきたい制度は「限度額適用認定証」「多数該当」「世帯合算」の3つ
高額療養費制度の基本知識
高額療養費制度
高額療養費制度とは、1カ月間(同じ月の1日から末日まで)に医療機関や薬局の窓口で支払った額が自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が後から支給される制度のこと
自己負担限度額は、本人の年齢や年収によって異なります。
例えば、70歳未満で年収が500万円の人の場合、医療費の自己負担限度額は「8万100円+(医療費-26万7000円)×1%」で計算することができます。
仮に入院の際の医療費合計額が100万円だった場合、自己負担限度額は「8万100円+(100万円-26万7000円)×1%」で8万7430円になります。
自己負担割合が3割の人は、医療費100万円の自己負担額が30万円のため、後から21万2570円が払い戻されます。
自己負担額の中で、「差額ベッド代」や「入院時食事代の一部負担」、「先進医療に関する技術料」などは、高額療養費制度の支給対象にはならないので注意しましょう。
公的医療保険の自己負担割合
病院を受診した際、窓口で自己負担する医療費の負担割合は原則3割になっています。
その中で、自己負担する医療費が3割負担ではない人がいます。
・義務教育就学前の6歳未満の人・・・2割負担
・70歳以上75歳未満の人・・・2割負担(ただし、現役並みに収入のある人は3割負担)
・75歳以上の人・・・1割負担(ただし、現役並みに収入のある人は3割負担)
年齢や所得によって自己負担割合には違いがあります。
自己負担割合と、医療費控除制度や高額療養費制度との違いについて見ていきましょう。
医療費控除制度との違い
高額療養費制度とは、同じ月の月初から月末の1カ月間に医療機関や薬局の窓口で支払った額が、定められた自己負担限度額を超えた場合に、その超えた分の金額が後から支給される健康保険の制度でした。
医療費控除とは、納税者本人、もしくは、生計を一にしている家族のために同じ年の年初から年末までに医療費を払った場合、その額を申告することで、一定の金額が所得から差し引かれる税法の仕組みになります。
高額療養費が支払った医療費の払い戻しであるのに対して、医療費控除は税金の控除であるところも違います。
高額医療・高額介護合算療養費制度との違い
高額医療・高額介護合算療養費制度は、同一世帯で医療保険に加入している人を対象に、毎年8月1日から翌年7月31日までの医療保険と介護保険の自己負担の合算額が非常に高額になった場合、申請により負担を軽減する制度です。
高額療養費制度では1カ月間を単位として基準額を設けて医療費の払い戻しが行われます。それに対して、高額医療・高額介護合算療養費制度では、1年間の単位で基準額を設けているという算定期間の違いがあります。
高額療養費とあわせて確認したい制度
高額療養費制度と合わせて確認しておきたい制度に、限度額適用認定証、多数該当、世帯合算があります。
高額療養費制度と合わせて確認しておきたい制度について、順番に見ていきましょう。
限度額適用認定証
限度額適用認定証は、病院等での支払いが高額になることが予想される場合に、あらかじめ加入している医療保険に申請を行うことにより、限度額適用認定証が交付されます。
病院等での支払い時に限度額適用認定証を健康保険証と一緒に提示することにより、支払いを高額療養費の自己負担限度額までで抑えることができます。
なお、限度額適用認定証の有効期間は、申請が受け付けられた月の1日から最長で1年間になります。
多数該当
多数該当は、病院などを受診した月以前1年間に、3カ月以上の高額療養費の支給を受けた場合、4カ月目からは自己負担額がさらに軽減される制度です。
例えば、70歳未満で年収850万円の人が90万円の医療を受けた場合、3割負担の人の場合で自己負担額は27万円です。
医療費の自己負担限度額は、16万7400円+(90万円-55万8000円)×1%=17万820円のため、後から高額療養費9万9180円が支給されます。
高額療養費を直近1年間で3回受ける場合、4回目からは「多数該当」にあたるため、自己負担額が9万3000円になります。
世帯合算
一人で複数の病院を受診している場合や、同じ世帯の家族が病院を受診した場合に、世帯で自己負担した額を合算することができます。
世帯の医療費の合算額が自己負担限度額を超えた場合は、高額療養費を受け取ることができます。
この仕組みを「世帯合算」といいます。
ただし、同じ世帯の家族が同じ医療保険に加入している必要があります。
また、70歳未満の人の合算が可能な自己負担額は、1カ月につき2万1000円以上のものについて合算することができます。
高額療養費制度が使えない5つのケース
高額療養費制度には、制度を利用することができない費用があります。
利用できない代表的な費用には以下のようなものがあります。
- 差額ベッド代
- 入院中の食事代
- 先進医療費
- 自由診療費
- 大きな病院の初診料
がんなどの治療で先進医療を受けた場合などの費用は、高額療養費の対象外になります。
出産時の帝王切開は健康保険が適用されるため、高額療養費の対象になります。
上記以外にも、条件によっては高額療養費が利用できない下記のようなケースがあります。
- 治療費が自己負担限度額より低い場合
- 月をまたいで治療が行われた場合
- 合算申請する場合に各治療費の自己負担額が21000円以下の場合
- 世帯合算する際、健康保険が家族間で異なる場合
- 2年間以上前の治療費を申請する場合
順番に解説します。
①治療費が自己負担限度額より低い場合
高額療養費制度は、医療機関などでの治療費が自己負担限度額を超えた場合に、その差額分が支払われる制度ですが、自己負担限度額は、それぞれの人の年収や年齢によって異なります。
年齢は70歳未満か70歳以上かで分かれるだけですが、年収は所得区分が図のように細かく分かれているので、自分がどこに区分されるのか事前に確認しておく必要があります。
治療費が自己負担限度額よりも低くなった場合、高額療養費制度は利用できません。
②月をまたいで治療が行われた場合
入院期間が月をまたいでしまった場合、高額療養費制度を利用できなくなるケースがあるため注意が必要です。
高額療養費制度は、かかった費用を1カ月ごと(月の始めから終わりまで)に集計します。
そのため、入院期間が2カ月にまたがった場合、2カ月に分けて申請することになります。
1カ月ごとに支払った費用を申請することになるため、自己負担限度額を超える額が少なくなる可能性があります。
計算例)治療が2カ月にまたいだ場合
月をまたぐケースを具体例で見ていきます。
<被保険者の条件>
- 年齢は45歳
- 被保険者の所得は40万円
- 入院治療を行い、治療費35万円を自己負担
上記の条件の場合、自己負担限度額は8万930円となります。
入院期間が7月25日から7月31日(同月)の場合
入院期間が同じ月で収まっている場合です。
治療費35万円は被保険者の自己負担限度額を超えているので、下記の給付額を受け取ることができます。
35万円-8万930円=26万9070円
入院期間が7月26日から8月1日(月またぎ)の場合
入院期間が7月に6日間、8月に1日間ですので、治療費をそれぞれ7分の6、7分の1とし、7月は30万円、8月は5万円の治療費がかかったと仮定します。
7月分 30万円-8万930円=21万9070円
8月分 自己負担限度額を超えていないため、高額療養費制度は利用できません
よって給付額は21万9070円になります。
③合算申請する場合に各治療費の自己負担額が2万1000円以下の場合
高額療養費制度には、同一の医療機関での自己負担額が上限額を超えない場合であっても、複数の医療機関などの医療費や同一世帯で同じ医療保険に加入している家族の医療費を合算することができます。
合算できる医療費の仕組みは、70歳未満の人と70歳以上の人では合算対象が異なります。
70歳未満の人は、受診した医療機関別、同じ医療機関においても医科・歯科別、入院・通院別に、自己負担額が2万1000円以上あるものが合算の対象になります。
70歳以上の人は、医療費の金額の大小にかかわらず、自己負担分をすべて合算することができます。
④世帯合算する際、健康保険が家族間で異なる場合
高額療養費制度には、同じ医療保険に加入している家族間であれば、自己負担額を合算して申請できる世帯合算という仕組みもあります。
ですが、共働きなどにより家族間で異なる医療保険に加入している場合には、自己負担額を合算することはできません。
計算例)共働きの場合
共働きにより家族間で異なる医療保険に加入している場合を具体的な計算例で確認してみましょう。
Aさん(夫)50歳・・・(甲)健康保険組合加入
Bさん(妻)48歳・・・(乙)健康保険組合加入
Aさん
病院E 受診1:8/1 外来医科受診 3万円
病院F 受診2:8/5 外来医科受診 3万円
Bさん
病院E 受診3:8/11 外来医科受診 3万円
AさんとBさんは夫婦ですが、共働きでそれぞれが異なる医療保険に加入しているため、上記の場合、Aさんの受診1と受診2は合算して手続きできます。
しかし、BさんはAさんとは異なる医療保険に加入しているため、受診3を受診1や受診2の医療費と合算することはできません。
Bさんは、受診3の単独で高額療養費の請求を行うことになります。
⑤2年間以上前の治療費を申請する場合
高額療養費の支給を受ける権利には消滅時効があります。
消滅時効は、診療を受けた月の翌月の初日から起算して2年間になります。
2年間のうちであれば消滅時効にはかかっていないため、さかのぼって高額療養費の支給申請を行うことができます。
入院時、外来時ともに制度を利用することができる?
入院時と外来時では、同じ病院を受診していたとしてもレセプト(診療報酬明細書)が分かれています。
しかし、窓口負担の額が下記のように決められた額を満たしていれば、それらを合算して高額療養費を請求することが可能です。
基準となる自己負担の額
- 69歳以下の人については、自己負担額が21,000円以上のもの
- 70歳以上の人については、自己負担額にかかわらず高額療養費制度の利用が可能
加入している健康保険組合よって助成に違いがある?
高額療養費制度は国の制度のため、制度の仕組みが決まっています。
そのため、自己負担限度額などは、どの公的な医療保険においても助成内容は同じです。
ただし、公的な医療保険によっては、「高額療養費付加金」という独自の制度を制定し、高額療養費制度よりも自己負担限度額を引き下げてその差額を給付しているところもあります。
高額療養費の給付と民間の医療保険の保険金は両方受取れる?
民間の医療保険に加入していて、手術や入院によって保険金を受けた場合、高額療養費は受けることができなくなると思っている人が多くいます。
しかし、それは誤りで、高額療養費と民間の医療保険の保険金は両方から給付を受けることができます。
民間の医療保険の保険金を受けていたとしても、高額療養費の計算の際には、民間の医療保険から支払われる保険金を差し引く必要はないので、もらい損ねることがないように気をつけましょう。
歯列矯正は高額医療費の対象にならない?
高額療養費制度は、保険診療の医療費が対象になります。
歯列矯正は保険診療ではなく自費診療のため、高額療養費制度の対象外となります。
ただし、歯列矯正と外科手術などの保険診療を合わせて治療するような場合には、高額療養費制度の対象にできる場合もあるようです。
厚生労働省指定の施設で治療を受ける場合に適用されるなどのルールがあるため、利用できるかどうかについては、歯科医院、もしくは厚生労働省のHPなどで確認する必要があります。
治療費が支払えない場合どうすればいい?
手術費用が高額になってしまい支払えないということにならないように、事前にできることを確認しておきましょう。
利用できる制度としては、「高額療養費制度」「限度額適用認定証」「無料低額診療事業」があります。
高額療養費制度については、これまで紹介してきたとおりです。
最初から医療費が高額になるとわかっている場合には、事前に公的医療保険に申請して、限度額適用認定証を交付してもらいます。
限度額適用認定証を退院時に医療機関の窓口に保険証と一緒に提出すれば、医療費の支払いを最初から自己負担限度額までにすることができます。
無料低額診療事業は、生活困難な人が経済的な理由で必要な医療サービスを受ける機会を制限されないように、無料もしくは低額な料金で診療を受けられる制度です。
それぞれの制度が利用できるかどうか検討しましょう。
困ったときは加入している公的医療保険に相談
どうしても治療費や入院代を払えない状況であることがわかった場合には、なるべく早めに医療機関や加入している公的医療保険の相談窓口に相談してください。
前もって相談しておくと、医療機関や公的医療保険もできる対応を考えてくれる場合もあります。
健康保険組合などの場合は、高額療養費が支給されるまでの間、当面の手術費や入院費用などの支払いにあてる資金として、無利子でお金を貸し付けてくれる高額医療費貸付制度が設けられていることもあります。
医療費はいつ返ってくる?
高額療養費は、医療機関等から提出されたレセプト(診療報酬明細書)を元にして、審査を経たうえで支給を決定しますので、決定までに3カ月ほどかかるようです。
領収書をなくしてしまったらどうすればいい?
高額療養費の支給時の審査では、医療機関から届いたレセプト(診療報酬明細書)で確認を行いますので、原則、領収書等は不要です。
ただし、公的医療保険によっては、規定で領収書の添付などが必要になる場合がありますので、各公的医療保険に問い合わせて申請方法を確認してください。
高額療養費制度が使えない場合への備え方【ケース別】
医療費の自己負担額を軽減できる高額療養費制度ですが、一部で対象外となるケースもあります。
また、高額療養費制度を利用したとしても自己負担額の支払いが難しい人もいるかもしれません。
ここからは、治療費の支払いが難しい場合への備え方をケース別にご紹介していきます。
治療費の支払いが不安な場合
高額療養費制度を利用したとしても、治療が長引くとそれだけ自己負担額も大きくなってしまいます。
また、十分な貯蓄がない人は、突発的な入院で費用が必要になることに不安を感じるかもしれません。
十分な貯蓄がない場合には、民間の医療保険で備えておくのがおすすめです。
医療保険は入院や手術をしたときに給付金を受け取れる保険で、予期しない医療費負担に備えることができます。
医療保険の主な保障内容は、入院1日ごとに受け取れる「入院給付金」と、手術を受けたときに受け取れる「手術給付金」です。
医療保険の保障額を決める際には、高額療養費制度を利用した場合の自己負担額を参考にして、不足しない金額にしておくのが良いでしょう。
先進医療の選択肢も残したい場合
先進医療にかかる技術料は公的医療保険制度の対象外となるため、高額療養費制度も利用できません。
そのため、数十万円から数百万円の自己負担が発生することもあります。
「いざという時に最善の治療を受けたい」「費用を理由に治療の選択肢を狭めたくない」という人は、医療保険の先進医療特約を持っておくのがおすすめです。
医療保険には、先進医療にかかる技術料を実費で全額保障してくれる先進医療特約を付加することができます。
保険料も月々数十円から数百円程度とお手頃なので、医療保険を検討する人は先進医療特約を付加する人がほとんどです。
いざという時のためのお守りとして特約を付加しておくと、安心できるかもしれません。
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まとめ
今回は、高額療養費制度の詳しい仕組みや実際の自己負担額について解説してきました。
実際に入院や手術を受けることになると、さまざまな手続きが必要になります。
いざというときに慌てることがないよう、事前に利用できる制度について理解しておくようにしましょう。
公的医療保険制度が充実している日本ですが、カバーしきれない部分に関しては民間の保険で備えておく必要があります。
しかし「自分にはどんな保険が必要なのか分からない」「1人で保険を選ぶのは難しい」と感じている人も多いのではないでしょうか。
ほけんのコスパの「ほけん必要度診断」では、簡単な質問に答えるだけで自分にとってどんな保険が必要なのかを診断することができます。
保険選びに迷ったときには、ぜひ活用してみてください。
(保険に関する内容の執筆:元保険代理店プランナー/保険ライター 橋本 優理)
(保険に関する内容の監修:ファイナンシャルアドバイザー 宮澤 顕介)